レコード評議会

お気に入りのレコードについてのあれこれ

In The Court Of The Crimson King / King Crimson【日本盤(1983年再発)、オーストラリア盤】

今回の「レコード評議会」の議題は、キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」。

プログレッシブ・ロックの超名盤。

通称「宮殿」。

 

キング・クリムゾン

クリムゾン・キングの宮殿

日本盤(1983年)

EG / Polydor

25MM 0261

Side1:25MM-0261A  A-1-1 FE3

Side2:25MM-0261B. A-1-2 

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A1. 21世紀の精神異常者

   ミラーズ

A2. 風に語りて

A3. エピタフ(墓碑銘)

   理由なき行進

   明日 又 明日

B1. ムーンチャイルド

   ドリーム

   幻想

B2. クリムゾン・キングの宮殿

   帰って来た魔女

   あやつり人形の踊り

 

 

帯の表面記載:

深遠なる宇宙の胎動を伝える悠久の音美学・・・

(↑もう、言葉だけでプログレ…)

ロック史上不滅のブリティッシュプログレッシブ・ロック・バンドキング・クリムゾンの偉大なるデビュー・アルバム。

(↑デビュー・アルバムにして最高傑作とも言われる…)

 

帯の裏面記載:

好評発売中 キング・クリムゾン

(↑このバンドに"好評発売中"は似合わないと思うが...)

HOME TAPING IS KILLING MUSIC AND IT'S ILLEGAL

(↑カセットテープに録音してラジカセで聴いていた...)

 

 

ライナーノーツ(渋谷陽一氏による)の記載:

僕が編集している雑誌「ロッキング・オン」には一時"21st Century Schizoid Magazine"というサブ・タイトルが付いていた事がある。無論、かのクリムゾンの名曲"21st Century Schizoid Man"からとったものだ。ロバート・フィリップが来日した時、それを見せたらほとんど無視されてしまった。(中略)

スタッフの中にクリムゾンのファンが多かったという事だけでなく、クリムゾンはロッキング・オンにとってひとつの指針となるグループであった。今や伝説と化したファースト・アルバムの衝撃。あれはビートルズの《アビーロード》をチャートの1位からひきずり落としたとういう現象面でのショックもともかくながら、今までにない言葉によって歌われたロックの登場として、意識的なロックファンに限りないショックを与えたのである。(後略)

(↑読んでました、ロッキング・オン…)

 

 

今から40年近く前、高校一年生の時だったと記憶しているが、ビートルズローリング・ストーンズザ・フーなど、英国ロックを聴いているうちに、目に入ってきたのがこのアルバム。悩んだ末に、恐る恐る買ってみた。

 

強烈なインパクトのジャケット。喉の奥まで見えるほど大きく口を開けた赤い顔の男。内側には、印を結ぶ丸く赤い顔の男。…何なんだ!?

 

"21世紀の精神異常者"(ジャケットの赤い顔の男?)との曲名。…こんな曲名を付けていいのか!?(今では"21世紀のスキッツォイド・マン"に表記が変わっている。)

 

ライナーノーツの記載「ビートルズの《アビーロード》をチャートの1位からひきずり落とした」。そうなのか!(実際にはそのような事実は無いとのこと。)

 

A面、キー、ゴー…というノイズ。そして、いきなりの轟音。Cat's foot, Iron claw... と歪んだボーカル。これは怖い!怖すぎる!

 

インスト部分の目まぐるしい展開と超絶技巧。何だ!?この音楽は!(当時、ジャズやジャズロックなどを知らなかった。)

 

本当に、衝撃的だった。衝撃の連続だった。

高校一年生で、まだまだ聴く音楽の幅が広くなかったこともあるのだろうが、この時の衝撃を超えるものは後にも先にも無い。

 

ちなみに、日本で最初に「宮殿」が発売されたのは1971年で、レーベルはAtlantic(米国のレーベル、発売元はワーナー・ブラザーズ・パイオニア

1983年再発盤のレーベルはPolydor(英国のレーベル、発売元もポリドール)。英国から改めて送ってもらったテープを使って、日本でカッティングしたのがこのレコードということなのだろう。

 

で、10年程前に改めてアナログレコードを聴くようになってから、手元にとっておいたこのアルバムを聴いてみたところ、CDでは味わえない空気感があった。

レコードは音が良いとか、響きが柔らかいとか言われるのが分かる気がした。

 

 

その後、様々なレコードを聴き、オーディオを地道にバージョンアップし(アンプ、スピーカーケーブル、電源ケーブルレコード針、ヘッドシェルなど)、あれやこれやと研鑽(?)を積み、レコードなるものが少しずつ分かるようになってきた。

(注)以下、個人的見解を含みます。

 

・年数が経つとテープは劣化するため、音の鮮度が良いのはオリジナル盤。

 

・オリジナル盤でも、使い込まれたスタンパーによりプレスされたものは音がヘタっている(音が眠いとも言う)

 

・マスターテープからのコピー回数が少ないほど音が良いはずなので、UKものならUK盤、USものならUS盤が基本。

 

・オリジナル盤と同じマザー(マトが同じ)を使ってプレスされた外国盤はオリジナル盤と同様に音が良い(特にプレス枚数が少ない=人口が少ない国が良い)

 

・同じマザーを使ったものでもビニールの材質の違いから音の響きが違うものになることがある。

 

・独自カッティングされた外国盤でも良い音で鳴るものがある。

 

・チューブカッティング真空管カッティング)トランジスタカッティングでは、音の空気感に違いがある。

 

・再発盤でも、こだわりを持って作られたものは音が良い(マイナーレーベルに多い)

 

 

ということで、「好きなアルバムはレコードで聴きたい、それも良い音で聴きたい」と、財布と相談しながら、あれやこれやと手に入れてきた。

時にオリジナル盤を手に入れることもあれば、余りにも高額とか、そもそも市場に出てこないとかで、オリジナル盤と同じマザーの外国盤を狙ったり、こだわりを持って作られた再発盤で手を打ったりと、いろいろだ。

 

さてそこで「宮殿」だ。これも良い音で聴きたい。

 

Discogsなどで調べると、1969年リリースのオリジナル盤と呼べるもののマト(matrix)は、A面が2種類、B面が3種類。(テストプレス盤なのか、A1&B1というのもあるらしいが...)

SideA:A▽2 A//3

SideB:B//2 B//3 B//4

 

A▽2B//2が最初期盤で、音が一番良いとされている。

A▽2B//4もよくある組合せで、B//2よりB//4の方が音圧が高く、音が良いという意見もあるようだ。

A//3B//3については、ネット上でも記事は見当たらず、どんなものなのか分からない。

 

音の鮮度を求めるならやっぱりUKオリジナル盤だよなと思い、あれこれチェックするが、値段が半端なく高い。盤質が悪いものでも結構な値段がする。盤質が良いものなど、0が5つ並ぶものもある。

 

さすがに、レコード1枚にそこまでの支出はマズいだろうビニール廃人になってしまう...)と思い、何か良い方法はないものかと思案し、UKマザーの外国盤はないか?と探してみた。

ビートルズなどではよくあるので(しかも音が良い)、「宮殿」もあるのではないか?

 

しかし、US、ヨーロッパ各国など、色々と調べてみたが、無い...

 

そんなものはないのか...と、半ば諦めつつ、ふとDiscogsでオーストラリア盤を見ると...

 

Matrix text on both sides is the same to one of the first UK releases on the pink Island label

SideA:A▽2 または A//3

SideB:B//2 または B//3

 

マト(matrix)がUKオリジナル盤と同じと書いてあるではないか。つまり、UKオリジナル盤と同じマザーが使われているということだ。

 

だがしかし、レーベルがPhilips?...UKオリジナル盤と同じマザーが使われているのに、英国と同じIslandでは無いのか?...まさか、マトを同じ英数字にした独自カッティングか?

値段は100オーストラリアドル(1万円弱)。本当にUKマザーなのであれば、はっきり言って安い。やっぱりUKマザーではなく、独自カッティングなのか?

 

と、商品説明を見ると「ジャケットの角が削れて痛んでいますが、その他はきれいです」とある。それでこんなに安いのか?それにしても、少々ジャケットが痛んでいたとしてもここまで安いか?

 

これ以上悩んでいても仕方がない。独自カッティングだとしても、きっと良い音で鳴るだろう、と踏ん切りを付けて、購入した。

 

で、オーストラリアから到着したのが、このレコード。

 

 

King Crimson

In The Court Of The Crimson King

(An Observation By King Crimson

オーストラリア盤(1969年)

Philips

PDS-348

Side1:ILPS 9111 A//3 13

Side2:ILPS 9111 B//2 12

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A1. 21st Century Schizoid Man

   including Mirrors

A2. I Talk To The Wind

A3. Epitaph

   including March For No Reason

           and Tomorrow And Tomorrow

B1. Moonchild

   including The Dream

           and The Illusion

B2. The Court Of The Crimson King

   including The Return Of The Fire Witch

           and The Dance Of The Puppets

 

...衝撃

 


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郵便物を開けて吃驚。

ジャケットの角が喰いちぎられたかのようだ。

確かに商品説明で「ジャケットの角が削れて痛んでいますが、その他はきれいです」と書いてあったけど…(その他はきれいです、って…)

どうしたらこんなになるのか?動物にでも食べられたのか?

うーむ、だから安かったのか…と、妙に納得した。

 

まあ、ジャケットが痛んでいたり、カット盤だったりしても、「音が良ければ全て良し」なので、むしろ安くなったので良かったのだと、気を取り直す。

 

それよりも問題なのは、マト(matrix)だ。

 

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A//3B//2

UKオリジナル盤の実物を見た訳ではないが、ネット画像と見比べても、この感じは確かにUKマザーだ。

レーベルがPhilipsなので心配していたが、UKマザーで間違いない。

 

しかも、ジャケットがズタズタにも関わらず、レコードそのものは全く傷もなく、盤質EX。Near Mintでも通用するレベルだ(ジャケットはボロボロなのに不思議だ)

 

そして、肝心の音はというと...

 

A1:冒頭のキー、ゴー…というノイズからしても、一聴して音の鮮度が高いのが分かる。金属的な響きのサックス、オーバードライブの掛かったキレの良いギター、唸りを上げるようなベース。細かく動くドラムは、スネアやタムを叩くスティックが見えるようだ。

 

A2:フルートの響きが素晴らしく、そこで吹いているようだ。倍音成分が豊富なのか、ふわぁとした空気に包まれる。ギターとドラムも繊細な演奏で、聴き入ってしまう。CDでは味わえない響きだ。

 

A3:Confusion will be my epitaph という一節が有名。ストリングス(メロトロンによる音)による音の塊がぶわーっと押し寄せる。キーボードなのかギターなのか分からないが、鐘のような響きの音が聞こえる。

 

B1:インスト部分はECM系フリージャズのような感じ。正直退屈な印象の曲だったが、音の鮮度が高いため、音だけで聴ける。

 

B2:オルガンとストリングスを掛け合わせたような神秘的な音(メロトロンによる音)と重層的なコーラスが押し寄せ、音に包まれる。

 

そうか、これがA//3B//2の音なのか…

A▽2B//3B//4も聴いてみたいとは思うが、これでもう十分に満足。

とにかく空気感が良く、これ以上鮮度の高い音を求めても、恐らくそうは無いのではと思う。

さすが、UKマザーの音だ。

 

 

ということで、「ズタボロのジャケットのインパクトを含め、このレコードは記事にすべし。ならば聴き比べをするか」と、1983年日本再発盤を何年かぶりに聴いてみた。

 

「日本再発盤に比べて、UKマザーのオーストラリア盤は鮮度抜群、さすがに素晴らしい音だ」という感じの記事になるのだろう、と思いながら聴いた。

1983年の再発盤、正直なところ、良い音は期待していなかった。

 

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ところが、思いの外悪くない。

さすがに空気感や音の鮮度はUKマザーに劣るものの、音がヘタっている(眠い)ということもなく、音のキレや音圧は中々のもの。

 

フルートの響き、ドラムの跳ねる音も、UKマザーに負けていない。

ドラムのタム回しなどでは、こちらの方が良く鳴っているところもある。

 

テープの保存状態、マスタリング、カッティング、それぞれが良かったのだろう。

思いの外の良い音に、ちょっとした衝撃を受けた。

 

うーむ、やっぱり再発盤でも良いものはあるのだな、と改めて実感。

レコード、ビニール道は奥が深い。

 

但し、その道に入り込みすぎるとビニール廃人になるので、気を付けねば…