recorded 'live' at Tsubo - Berkeley, California
A1:Full House
A2:I've Grown Accustomed to Her Face
A3:Blue 'n' Boogie
B1:Cariba
B2:Come Rain or Come Shine
B3:S.O.S.
Wes Montgomery:Guitar
Johnny Griffin:Tenor Saxophone
Wynton Kelly:Piano
Paul Chambers:Bass
Jimmy Cobb:Drums
Orrin Keepnews:Producer, Liner Notes
Wally Heider:Recording Engineer
Ken Deardoff:Album Design
Jim Marshall:Back-Liner Photos
Riverside Recordsの創業者でプロデューサーのオリン・キープニュースによるジャケット裏面のライナーノーツには以下のようなことが書かれている。
1962年6月初旬、マイルス・デイヴィスのグループがサンフランシスコに来ていた。
ジョニー・グリフィンもサンフランシスコに来ていた。
ウェス・モンゴメリーは兄弟とバークレー(サンフランシスコ湾東岸の都市)のコーヒーハウスTsuboで演奏していた。
偶然近くにいたことから「マイルスのリズムセクション3人+ジョニー・グリフィン+ウェス・モンゴメリー」によるレコーディングのためのグループが編成され、1962年6月25日、バークレーのコーヒーハウスTsuboでライブレコーディング(公開録音)が行われた。
月曜日の夜にもかかわらず、店は人で溢れた。
アルバムタイトルおよびA1の曲名Full Houseは、この情景(店が満員)を表している。
また、一流の素晴らしいメンバーが5人揃っていることから、ポーカーのフルハウスも意味している。しかも、キングとエースによるフルハウス(※)。
※ キングとエースは、それぞれこんな感じだろうか?
キング:ジミー・コブ (ds)
ポール・チェンバース (b)
エース:ウィントン・ケリー (p)
ジョニー・グリフィン (ts)
ウェス・モンゴメリー (g)
なかなか洒落たタイトルだと思う。
ジャケットのデザインも秀逸だ。
ということで「レコード評議会」、Full Houseの US盤 Original と US盤 OJC の聴き比べが今回の議題。
US盤(1962年)
Riverside
RS 9434
Side1:RS 9434A 4771
Side2:RS 9434B 4771




CDで聴いていた時分から愛聴していたこのアルバム。特に (A3)Blue 'n' Boogie と (B3)S.O.S. は白熱の演奏で、ハードバップの超名演だ。
そんなアルバムを是が非でもオリジナル盤で聴いてみたいと探し続けたが、なかなか無い。レコード店でもDiscogsでもまず見ることはなく、あっても盤質Goodレベル(=キズあり、音飛びありのレベル)しかない。
そんな中、1年半程前にeBayで出品されているのを偶然発見。しかもタイミングが良かったのか、競合相手もなかったため、何と103ドルで落札。
届いた盤は少し擦り傷がある程度で、ノイズもほとんど無しの盤質EX〜VG+レベル。それでこの値段は格安と言える(倍以上でもおかしくない)。
音は、さすがのオリジナル盤。素晴らしい演奏がより素晴らしく聴こえる。
ジミー・コブ (ds):ドラムが演奏にグルーヴを与えている。A3でのリムショット(カッ、カッ、という音)はエッジが効いていて、スティックがスネアを叩く映像が見える。B3でのシンバルワークもカッコいい。
ポール・チェンバース (b):スピーカーからズンズンと鳴る低音に芯があり、ベースの動きがよく分かる。底から支えつつ、演奏に推進力を与えているのが実感できる。
ウィントン・ケリー (p):よく弾むピアノが粒立ちの良い音で、スウィング感が素晴らしい。特にA3のピアノソロは彼の中でも最高のものだと思う。
ジョニー・グリフィン (ts):少しざらついた感じで、かつ太い音。スピーカーから出てくるテナーの音がリアルで、まるで彼がそこにいるかのようだ。A3でのテナーソロで興奮する聴衆の拍手が店の熱気を伝えてくれる。B3のソロもこれしかないという演奏。
ウェス・モンゴメリー (g):シングルトーン、オクターブ奏法、コード奏法とそれぞれの違いがリアルな音で伝わってくる。ウェスは親指で弾くのだが、その動きが見える。歌うようなフレーズ(しかもアドリブ)がその親指から次々と繰り出される。
それにしても、臨時編成のグループにも関わらず、この一体感は何だ?まるでいつも一緒いるグループのようだ。
レーベル面に WES MONTGOMERY Quintet と記したオリン・キープニュースの気持ちも分かる。
US盤(1984年)
Original Jazz Classics
OJC-106 (RLP-9434)
Side1:GP OJC 106 A-1 A 3
Side2:GP OJC 106 B-1 D 2




今から5年程前に、中古レコード店で800円で購入したOriginal Jazz Classicsからの再発盤、通称OJC盤。
オリジナル盤を手にしたことから、もう用無しか?と思いつつ、改めて聴いたところ、これがかなりの良音。
カッティングレベル(音の大きさ)、音圧はオリジナル盤と殆ど変わらない。さらには、高音域のキレの良さ、中音域の適度な膨らみ、低音域の存在感、これらがオリジナル盤と基本的に同じ響きなのだ。
演奏している場所の空気感、聴衆の拍手のリアルさなど、音の鮮度はオリジナル盤にはさすがに敵わないが、OJC盤も充分に良い音だと言える。
Original Jazz Classicsは、Fantasy Recordsが1983年に設立したレーベルで、同社傘下レーベルのRiverside、Prestige、Contemporaryなどの名盤を復刻・再発している。
あのオリン・キープニュースが監修を務めており、良い音でかつ安価でジャズの名盤を楽しんで欲しいとのポリシーの下、丁寧に作られている(※) 。
※ オリジナルのジャケットデザインが使われ、レーベル面もそれぞれのレーベルデザイン似せて復刻されている。アナログマスターテープから(デジタルトランスファーされることなく)アナログのままリマスタリングされ、カッティングされている。
しかもこのFull Houseは、もともとRiversideでオリン・キープニュース自身がプロデュースし、ライナーノーツまで書いているほどのアルバム。かなり思い入れがあるであろうことは想像に難く無い。
その彼が監修して復刻・再発したものなのだから、このFull HouseのOJC盤、悪かろうはずが無い。
再発盤の中には、音に芯が無い、音がヘタっている、音の響きが薄っぺらい…など、正直なところイマイチなものも時折ある。
だが、こだわりを持って復刻・再発されたものは、良い音で鳴る。
改めて他のOJC盤も聴いてみたところ、1980年代に制作されたものは、かなり良い音で鳴る。
「私の目の黒いうちは、いい加減なもの世に出さない」とオリン・キープニュースが言ったかどうかは分からないが、こだわりのある人だったのは間違いないだろう。
1953年 Riversideを設立
1964年 Riversideが倒産
1966年 Milestoneを設立
1972年 MilestoneをFantasyが買収
Riversideの権利をFantasyが購入
FantasyでA&Rを担当
1985年 Landmarkを設立
1988年 Grammy Award 受賞
1993年 LandmarkをMuseが買収
2004年 Grammy Trustees Award 受賞
2011年 NEA Jazz Masters 受賞
彼の経歴を見ると、ジャズに対する貢献の大きさが分かる。
ジャズは、こういう人によって名盤が産み出され、そして後世に受け継がれて行くのだな、と思いを馳せながら、Full Houseを聴く。
そして「1962年のオリジナル盤、1984年のOJC盤、どちらもオリン・キープニュースの溢れる思いによって作られた素晴らしいレコードであり、正にFull House、フルハウスだな…」と思うのだった。(了)