サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付」、この曲を最初に聴いたのは、中校生の時。
試験勉強の際、カセットテープに録音した音楽をヘッドホンで聴きながら机に向かっていたものだが、この曲もよく聴いた。
オルガンが荘厳に鳴り響く第二楽章後半(実質第四楽章)は、素直に感動的だ。
かなり有名でもある。TVアニメ「ルパン三世 (第2シリーズ) 」でも使われている。しかも3回も(悪魔がルパンを招くとき、1999年ポップコーンの旅、死の翼アルバトロス)。実際TVで視た(聴いた)記憶がある。
有名な曲だけに録音も多いが、
といったところが定番ではないかと思う。
さて、ここからが「レコード評議会」の本題。
Saint-Saëns
Symphonie N°3 en ut mineur avec Orgue
Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire
Maurice Duruflé aux Grandes Orgues de l'Eglise St Etienne du Mont
direction Georges Prêtre
フランス盤(1963年 (1964年?) )
Pathé Marconi (Les Industries Musicales Et Electriques Pathé Marconi)
La Voix De Son Maître
CVB 1792
Side1:2YLA 1210 21 M6 257781 P
Side2:2YLA 1211 22E M6 257782 P




ジャケットに記載されているフランス語を転記してみた。訳すとこういうこと。
サン=サーンス作曲
交響曲第3番「オルガン付」
パリ音楽院管弦楽団(直訳すると(パリ)音楽院演奏会協会管弦楽団)の演奏
モーリス・デュリュフレによるサンテティエンヌ・デュ・モン教会のパイプオルガンの演奏
ジョルジュ・プレートルの指揮
サンテティエンヌ・デュ・モン教会は、パリのパンテオン近くにあるカトリック教会。
パリの守護聖女サント・ジュヌビエーブが祀られている。
哲学者・数学者パスカル(「人間は考える葦である」、パスカルの定理、パスカルの原理で有名)や劇作家ラシーヌの墓もある。
墓地にはフランス革命指導者の一人マラーが埋葬されている。
なお、ジャケットの絵は、サンテティエンヌ・デュ・モン教会を描いたものか?と思ったら、モネの「ルーアンの大聖堂」とのこと。
サンテティエンヌ・デュ・モン教会
外観(Wikipediaより)
内部(同上)
パイプオルガン(同上)
オーケストラ演奏の録音は、サル・ワグラム(Salle Wagram、クラシックの録音でも有名なホール)で行われたらしいのだが、オルガンについては、このサンテティエンヌ・デュ・モン教会のパイプオルガンで演奏された音が収録されているということ。
次に触れておきたいのが、ジャケットとレーベル面にあるこのロゴ。


犬の名前はニッパー(Nipper)。亡き飼い主の声が聴こえる蓄音機を不思議そうに覗き込んでいる姿を描いたもの。
La Voix De Son Maître は、英語に訳すと、His Master's Voice(彼のご主人の声)。
この His Master's Voice、各国毎に翻訳されている。
以下写真にある、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語のレコードは実際に持っている。(スペイン語、ポルトガル語、スウェーデン語、ポーランド語、ノルウェー語、トルコ語、中国語もあるらしい。)




初めて見た時は「そうなんだ、面白いなぁ」と吃驚と言うか、少し感動した。
因みに、His Master's Voice の略称 HMV は、大手CDレコード店 HMV のもととなっている。
それと、このロゴは今でもビクターブランドで使われている。


注:His Master's Voice のことを詳しく書くと(Berliner Gramophone、Victor、RCA、HMV、EMI、Pathé Marconi ...)、それだけで膨大になるので、ここには書きません。
さて、このレコードなのだが、手にするまでにかなりの道のりを経ている。





① La Voix De Son Maître / CVB 1792:2枚
フランス オリジナル盤(ステレオ)。このブログに記載のレコードと同じもの。1963年(もしくは1964年)の発売。
② La Voix De Son Maître / ASDF 792:1枚
フランス dowel spine盤(内袋の右端に黒い木製の丸棒が取り付けてある)。マトはオリジナル盤と同じ(特別仕様として発売されたもの?)。
③ La Voix De Son Maître / CVL 1792:3枚
1970年代のフランス再発盤。マトはオリジナル盤と同じ。
④ La Voix De Son Maître / 2C 069-1060:3枚
1970年代のフランス再発盤。カッティングし直したもの(オリジナル盤はチューブカット(真空管カット)だが、こちらは恐らくトランジスタカット)。
⑤ Angel Records / S35924:1枚
1960年代のUSオリジナル盤。米国でカッティングされたもの。
そもそも偶々④を購入したのが、ことの始まり。その演奏内容に心を奪われた。
そして、より良い音で聴きたい、一番良い盤を手にしたい、と思い、中古レコ屋で見つけては買い、オリジナル盤を求めてDiscogsで海外から取り寄せたりした。
ただ、納得のいくものを手にするまで、その道のりは長かった。
音は鮮明で素晴らしいのに、いいところで目立つ周回ノイズがある(興が削がれる)。
傷の類は一切無いものの、プレス枚数が嵩んだことが原因なのか、溝がヘタっている感じがする(感動が薄れる)。
全く悪くないが、もう一段上の音がする盤がある気がする(…どうしたものか)。
好きな曲、好きな演奏なだけに、少しでも気になってしまうともういけない。
そして「意地でも、納得できるものを手に入れる」と、手にしたレコードは累計10枚。
Discogsで注文したら、違うものが来た、ということもあった(たまにある…)。
そして、足掛け3年、11枚目にして、ついに納得できるものを手に入れた。
それまでの10枚は、呪いを断ち切るべく(笑)、思い切って全て売却した。そもそも購入価格は全て1千円前後だったのだが、買取価格は様々で、中には買取価格の方が高いものもあった。中古レコードの価格はホント色々です。
で、肝心の演奏と音は、と言うと、これがもう素晴らしいの一言。
まず、演奏については、
パリ音楽院管弦楽団は、正に古き良きフランスの音色で少し古色然とした感じだが、それ良い。(アメリカのオーケストラとは全く違う音がする。)
ジョルジュ・プレートルは、このレコードで初めて知った指揮者なのだが、彼のアーティキュレーションは私の感性に合うのだろう、最初から最後まで強い説得力を感じる。
モーリス・デュリュフレは、1929年から1986年に亡くなるまでサンテティエンヌ・デュ・モン教会のオルガニストの地位にあり、その人の演奏だけに間違いはない。
そして、音そのものについては、
弦楽器が静かに演奏するところでは、空気が細かく震えるように響く。
管楽器、特にホルンが力強く演奏するところでは、倍音成分が豊富に響く。
トロンボーンの低音が凄い。スピーカーがビリビリと響く。
パイプオルガンの重低音が凄い。空気がズーンと響く。
交響曲「オルガン付」という名の通り、パイプオルガンが鳴り響く。
サンテティエンヌ・デュ・モン教会のパイプオルガンの荘厳な響きに空気が震える。
オーケストラの演奏は上品な残響があるのだが、その雰囲気はまるで教会で演奏しているかのような感じだ。
自分の脳内には、サンテティエンヌ・デュ・モン教会の中でオーケストラとパイプオルガンが一緒に演奏している絵が浮かんでいる。
この交響曲は標題音楽ではなく、絶対音楽なのだろうが、宗教音楽・教会音楽のようでもある。
「人生の困難に直面し、苦しみながらも、それを乗り越え、最後には高みに達する(神に近づく)」といった感じの構成・曲調で、パイプオルガンが入っているためか、尚更そう感じさせる。
なかなか上手く言い表わすことが難しいので、もうこの辺で止めておくが、ともかくこのレコードは曲自体も、演奏も、音そのものも素晴らしい。
特にクライマックスの第二楽章後半は、決して急ぐことなく、一歩一歩進むかのようなテンポで、それが本当に素晴らしい。
スピーカーを前に真剣に聴いていると、首の後ろがジーンとしてくる。涙が出てくるほど。
交響曲「オルガン付」の名盤と評されているものの中に、この盤が入っているのを見たことが無い。それどころか、殆ど知られていないのではないか、とも思われる。
だが、個人的にはこれ以上の盤は無い。
私的「超名盤」(名盤を超えた名盤)だ。
出会えて良かった、と心底思う。
よく「自分が死んだら一緒に棺桶に入れて欲しい」という台詞があるが、そんな感じだ。
でも、そんなことをしてはいけない。
このレコードは今から50年以上も前のものだが、それが今、感動を与えてくれる。
ならば、今から50年後、100年後も、誰かに感動を与えることだろう。
そのためにも、このレコードは後世に残さねければならない。
芸術や文化は後世に受け継がれてこそ。
レコードも同じ。