レコード評議会

お気に入りのレコードについてのあれこれ

Letter From Home / Pat Metheny Group【US盤】

今回の「レコード評議会」は、「このレコードの、その本当の音、その背景、その真価を、四半世紀経った今になって知った」というお話…

 

 

Pat Metheny Group

Letter From Home

US盤(1989年)

Geffen Records

GHS 24245

Side1:GHS-224245-A-SR1-DMM MASTERDISK DMM SP1-1

Side2:GHS-24245-B-SR2-DMM SP1-1 MASTERDISK DMM


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中学生の頃から音楽を聴き始め、学生時代はクラシックロックとを並行して聴き散らかしていた。

 

クラシックベルリオーズ、リスト、ワーグナーマーラーチャイコフスキーラヴェルストラヴィンスキーラフマニノフプロコフィエフショスタコーヴィチレスピーギ、他

☝︎ これら作曲家の専らオーケストラものを聴いていた。

 

ロックビートルズザ・フーストーンズ、クリムゾン、ツェッペリン、パープル、レインボー、ホワイトスネイク、インギー、スタカン、ブロモン、デュラン、スミス、トーキング・ヘッズ、プリンス、他

☝︎ 基本、英国ものを聴いていた。(一部例外を除き、当時は「米国はダサい」と言ってあまり聴かなかった。→その後改心して、今はよく聴いています。)

 

社会人になってからも、あれこれトライした。(中でもザッパ、特にジャズ・ロック路線は新鮮だった。現代音楽のような音使い、変拍子、時に超テクニカルな演奏。エキセントリックな音楽だが、妙にハマった。)

 

だが、どうにも行き詰まりを感じ始めていた。

 

そんな中で出会ったのが、

Pat Metheny Group の Letter From Home

これ良いですよ、とCDを貸してもらったのが始まり。

 

最初の曲 Have You Heard。高度な演奏、洗練されたアレンジ。疾走感、スピード感。軽やかさ、爽やかさ。しかも、よくよく聴いてみると7/4拍子。それにもかかわらず、流れるようなメロディで、変拍子であることを全く感じさせない。…こんな音楽があるのか。

 

Pat Metheny / guitar:ナチュラルトーンで複雑なフレーズが高速で流れるように奏でられる。疾走感、スピード感はあるのだが、ロックの速弾きギターとは全く違う。リッチーやインギーの速弾きは如何にも「速弾き」なのだが、それとは全く違って、速いということを感じさせない。

 

Lyle Mays / piano, keyboards:音使い、音色が美しく、綺麗。シンセの音は風が吹いているようで、浮遊感もある。曲全体のトーンをまとめているのはこの音だと思う。

 

Steve Rodby / bass:決して目立たず、前に出ることはないのだが、このベースの音が無かったら、曲が軽くなり過ぎてしまうだろう。音楽を底から支えている。

 

Paul Wertico / drums:軽やかなスネア、繊細なシンバルワークが曲に推進力、疾走感をもたらしている。手数も多く、超テクニカルなのだろうが、それを感じさせない。

 

Armando Marçal / percussion:要所要所で入るブラジルフレーバーのパーカッション。譜割り出来なさそうなリズム。この人ならではのリズムなのだろう。なくてはならない音。

 

Pedro Aznar / voice, etc.:テーマ2回目から入ってくる歌声。歌詞は無く、声が楽器のように響く。声(voice)という楽器と言うことか。濁りのない澄み切った天使のような声。

 

続く Every Summer Night。少し昔を思い出しながら、懐かしむような雰囲気の曲。田舎でもないけど、都会でもない街。真夏の夜、夕暮れからもう少し暗くなった夜に差し掛かったところ。人の数は少なくもなく、少しざわついている。そんな風景をひとり眺めている。そんなイメージ。Montreal International Jazz Festival に捧げた曲なのだそう。何となく納得。

 

こんな調子だといつまでも終わらないので、あと一曲 Dream Of The Returnスペイン語で歌われる。歌詞の内容は分からなくても、澄み切った天使の声に心が洗われる。意味もなく涙が出てくるほど。中間のシンセギターによる飛翔感のあるソロも素晴らしい。

(軽い感じがするので、こういう表現はあまりしたくないのだが、「珠玉の名曲」と言って良いと思う。)

 

魅了され、自分でもCDを買い、以前の作品も遡りつつ、新譜が出る度に聴いていったのは言うまでもない。

 

 

...で、ここからが「レコード評議会」の本題。

 

 

この音楽(CD)に出会って数年、1995年と記憶しているが、大阪心斎橋の輸入CD・レコード店でこのアルバムのアナログレコードを見つけた。

 

その頃はレコードプレイヤーも手元になく、買っても聴くことは出来ないのだが、買った。大きなジャケットに惹かれたのと、将来レコードプレイヤーで聴く機会もあろうか、と思ったのだ。

 

中古ではなく、新品だった。1,200円位だったと記憶している(Discogsでは現在少なくとも6〜7,000円、その倍以上での出品もある)

 


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時は過ぎて、2012年にアナログプレイヤーを入手した。

 

そう言えば昔に買ったな、と仕舞い込んでいたレコードを17年ぶりに取り出す。ついにこのアルバムをレコードで聴くことが出来る。

 

レコード盤に針を下ろすと、ハイレゾ系の音が出てきた。言ってみればスーパーオーディオCDのような感じ。CDと比べると、音はやや柔らかい印象だ。

 

そもそもデジタルレコーディングなので、CDの音も悪くない。レコードとCD、それぞれ良さがあるな、と。

(アナログレコーディングの音源をデジタル変換してCDにした場合、マスタリングが上手くないと薄っぺらな音になるが、デジタルレコーディングのものはそんなことはあまり無く、総じて良い音がする。)

 


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…更に時は過ぎて、2020年のこと。新品のレコードは綺麗に見えるが、製造工程で使われた剥離材が残っているので、クリーニングした方が音が良くなる、といった記事を読んだ。

 

そうなんだ、でも中古盤は買ってきたら全てクリーニングしているしな。

 

…ん? Letter From Home は新品を買ったんだよな…クリーニングしたっけ?

 

クリーニングしてみた。アルカリ電解水を吹きかけて、極細歯ブラシでレコード溝の奥の不純物を取り除く。最後は水で洗い流し、マイクロファイバークロスで水分を拭き取る。

 

そして針を下ろすと、なんと全然違う音が出てきた。

 

音の鮮明度が向上し、ギターやキーボード、ヴォイスがよく伸びる。

音の粒立ちが良くなり、ベースや打楽器がよく跳ねる。

何より格段に音像が拡がって、ふわっとした空間が感じられる。

 

これが、このレコードの本当の音なのか…

当初手に入れた時から25年後(四半世紀)に、その本当の音を聴くことになるとは…

 

 

そして、2022年。今回この記事を書くに当たって、改めてクレジットを見てみたところ、レコードジャケット裏面に

Mastered by Bob Ludwig, Masterdisk

と記載されている。確認すると、CDにも同じく記載されている。

 

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そうなの?! 

つまり、このアルバムの音はBob Ludwig(*)がマスタリングをしたものということだ。

 

Bob LudwigRobert C. Ludwig、ロック・ポピュラー界で絶大な信頼を寄せられているマスタリングエンジニアの名匠(ジャズ界で言えば、Rudy Van Gelderのような存在)。彼がマスタリングやカッティングを手掛けたものは、良い音が保証されている、と言っても過言ではない。Led Zeppelin、Rolling Stones、Steely DanDonald Fagen といった辺りの仕事が有名なのではないでしょうか。

 

レコードのカッティングには携わっていないようだが(RLの刻印は無い)、マスタリングは彼がしていたのか...

ここでも仕事をしていたとは、Bob Ludwig... 

 

本当に驚いた。音が良いのも大いに納得。

 

それにしても、このアルバムは1989年の作品。メディアはCDに完全に移行しており、殆どアナログレコードは製造されていない時代なのに、わざわざレコードでも発売するとは。

 

Bob Ludwig がマスタリングした音をアナログレコードで出さない訳にはいかない、とうことか。

 

 

...ということで、1995年に手にしたレコード、その本当の音、その背景、その真価を、四半世紀経った今になって知るに至り、何とも言えない感慨に耽っている(←大仰な)。